京都地方裁判所 昭和59年(行ウ)22号 判決 1992年9月28日
京都市中京区麸屋町通丸太町下ル
長栄ビル四階
原告
株式会社中央破産管財人 坂元和夫
右訴訟代理人弁護士
尾藤廣喜
京都市下京区間之町五条下ル大津町八番地
被告
下京税務署長 森下巳代治
右指定代理人
杉浦三智夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、昭和五八年六月二九日にした株式会社中央に対する昭和五六年五月一日から昭和五七年四月三〇日までの清算中事業年度分の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(いずれも昭和五八年一二月一九日にした再更正処分後のもの)を取り消す。
第二事案の概要
一 請求の類型(訴訟物)
本件は、原告が、被告のした法人税更正処分に、土地譲渡利益の金額を過大に認定した違法があるとして、その取消を求める抗告訴訟である。
二 前提事実(争いがない)
1 原告は、昭和五四年一〇月九日、京都地方裁判所において破産宣告を受けた株式会社中央(破産会社という)の破産管財人である。
2 原告は、昭和五四年一一月二日、破産会社の元代表取締役坂根圭輔から、同人の破産会社に対する貸金債務(一億三、九二一万二、〇〇〇円)の代物弁済として、別紙物件目録記載の土地(本件土地という)を取得した。
3 原告は、昭和五六年六月二二日、本件土地を訴外嶋倉英夫に一億七、七三三万円で譲渡した。
4 原告のした破産会社の昭和五六年五月一日から昭和五七年四月三〇日までの清算中事業年度(係争事業年度という)分の法人税の申告、更正処分及び賦課決定処分、再更正処分の経緯は、別表一記載のとおりである。
原告は、昭和五八年八月二四日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、昭和五九年一〇月八日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
三 争点
本件土地の取得原価。即ち、原告が、坂根圭輔との間の即決和解に基づき支払った清算金三、〇〇〇万円が、本件土地の取得原価に該当するか。
四 原告の主張
1 係争事業年度において土地等の譲渡がある場合、租税特別措置法(昭和五八年法律第一一号による改正前のもの、以下、措置法という)六三条の特別税率が適用されること及び別表二の番号一、三の金額が被告主張のとおりであることは争わない。しかし、別表二の番号二記載の土地の譲渡に対応する原価の額(取得原価という)は、被告主張額よりその後支払った清算金三、〇〇〇万円の額だけ多い一億六、九二一万二、〇〇〇円である。
2 原告は、坂根から本件土地を代物弁済により取得した。契約当初明確でなかったが、その後、双方の交渉により、当初の合意を差額清算付の代物弁済契約とする合意をした。
そして、これに従い、原告は、債権者集会の決議(昭和五五年一〇月二四日)及び破産裁判所の許可を得て、同年一二月二四日、坂根との間で、本件土地の代物弁済の清算金として、三、〇〇〇万円の支払義務を認める即決和解(本件和解という)をした。
原告は、清算金三、〇〇〇万円を、次のとおり、完済した。即ち、坂根に対し、同日一、五〇〇万円を、坂根の相続人に対し、昭和五六年六月二二日に二五〇万円、昭和五七年七月二三日に残額一、二五〇万円を、それぞれ支払った。
3 以上のとおりであるから、本件和解による代物弁済の清算金三、〇〇〇万円を取得原価に含めるべきである。
五 被告の主張
1 係争事業年度において土地等の譲渡がある場合、措置法六三条の特別税率が適用され、その計算方法は、別表二記載のとおりである。
取得原価は、譲渡直前の帳簿価格(措置法施行令三八条の四第五項)ないし、取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額と当該資産を事業の用に供するために要した費用の額との合計額(法人税法施行令五四条)をいう。
そして、本件土地の譲渡直前の帳簿価格は、一億三、九二一万二、〇〇〇円である。取得の時における取得のために通常要する価額も、鑑定評価額の一億三、九二一万二、〇〇〇円とみるべきであり、本件土地を事業の用に供するために要した費用の額は零円である。
したがって、本件土地の取得原価は、別表二の番号二記載のとおりである。
2 原告と坂根間でなされた当初の代物弁済を、差額清算付の代物弁済とすることの新たな合意ないし本件和解は、いずれも当初の代物弁済とは異なる新たな合意であって、それに基づく清算金の支払は、本件土地の取得のために通常要する価額とは認められず、取得原価を構成するものではない。
3 右により破産会社にかかる法人税の額を計算すると、別表三記載のとおりとなり、本件更正処分(再更正処分後のもの)と同額になる。
第三争点の判断
一 事実の認定
証拠(甲二、三の1、2、乙三、四)、当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 当初債権者集会で、破産会社の代表取締役坂根圭輔に対する責任追及の声が上がった。
(二) 原告は、前示のとおり、昭和五四年一一月二日、右坂根から同人に対する賃金債権一億三、九二一万二、〇〇〇円の代物弁済として本件土地を取得した。それは、不動産鑑定士の鑑定評価により、適正な価額であるとされたものであった。
(三) 破産管財人である原告は、債権者の感情を配慮して、坂根に債権放棄(債務免除)を求め、同人の承諾を得た。そして、本件土地を、一億三、九二一万二、〇〇〇円をもって取得した旨の経理処理をし、その次期の事業年度の清算中予納申告書の貸借対照表にその旨が計上された。
(四) ところが、その後、坂根は弁護士高橋南海夫に依頼して、清算金の支払を求めてきた。
(五) そして、原告は、本件土地を転売後、右高橋弁護士との間で、清算金三、〇〇〇万円を支払う旨の合意をした。
二 措置法六三条の特別税率の対象となる土地の譲渡に係る譲渡利益金額は、土地の譲渡による収益の額(本件では一億七、七三三万円)から、取得原価及び譲渡のために直接又は間接に要した経費の額(負債利子の額、販売費及び一般管理費・本件では二、三二〇万二、〇〇〇円)を控除して算出する(措置法六三条二項)。
右取得原価は、譲渡直前の帳簿価額をいう(措置法施行令三八条の四第五項)。右にいう帳簿価額は、減価償却資産以外の固定資産(本件土地もこれに当たる)の場合、法令上特別の規定はないが、減価償却資産の例により、法人税法施行令五四条に定める取得価額を基礎として計算された価額を下ることはできない(法人税法基本通達七-三-一六-二参照)。
三 本件土地の譲渡直前の帳簿価額は、前認定一(三)のとおり、一億三、九二一万二、〇〇〇円である。そして、本件土地は、代物弁済によって取得されたものである。だから、その取得価額は、法人税法施行令五四条一項七号に準じて、その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額をいう。
そして、右にいう本件土地の取得のために通常要する価額は、代物弁済の場合、これにより消滅する債権額と同額と解するのが相当である。
そうすると、本件の場合、一億三、九二一万二、〇〇〇円と認められる(前示前提事実2)。
本件土地を事業の用に供するために直接要した費用の額については、これを認めるに足りる的確な証拠がない。
本件土地の譲渡直前の帳簿価額と税務計算上の取得価額は一致し、結局、本件土地の取得原価は、一億三、九二一万二、〇〇〇円であると認められ、被告主張の別表二の番号二の金額と同額である。
四 原告は、原告と坂根間でなされた当初の代物弁済後、これを差額清算特約付の代物弁済とするとの合意及びこれを前提とする本件和解に基づき支払った清算金三、〇〇〇万円は、取得原価を構成すると主張する。
しかし、右主張自体から明らかなように、右の合意及び本件和解は、あくまでも、当初の代物弁済とは異なるその後になされた事後的合意である。そうとすれば、それに基づいて支払義務を負担した清算金は、本件土地の取得時における土地取得のために要する価額ということはできず、取得原価を構成するものではない。
もっとも、原告は、当初の代物弁済の時点で、鑑定評価額一億三、九二一万二、〇〇〇円をその価額とするが、現実の換価額がこれを上回るときは、差額清算をする旨の特約が付されていたとも主張する。しかし、これにつき、正確には、当初この点は明示されず、事後の交渉により右特約を合意したとその主張を補充している。
前認定一の各事実、弁論の全趣旨に照らすと、当初清算金のない代物弁済契約をし、仮に清算金債権があるとしても、これを放棄ないしその債務の免除を得ていたもので、本件土地を代物弁済として取得した原価には、清算金が含まれていなかったことが明らかである。
これが、その後の合意によって、右清算金名目の三、〇〇〇万円の支払が、遡って、措置法六三条の適用に関する税務計算上、本件土地の取得原価になるものとはいえない。
五 法人税の額
以上に従い、破産会社に係る法人税の額を計算すると、被告主張の別表三記載のとおり、本件更正処分(再更正処分後のもの)と同額になる。
六 結論
以上のとおりであるから、被告のした本件法人税の更正処分(再更正処分後のもの)は適法であり、これに違法な点はない。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 裁判官 佐藤洋幸)
別紙物件目録
所在 京都市北区平野鳥居前町
地番 七八番
地目 宅地
地積 五五六・八五平方メートル
別表1
課税経緯
<省略>
別表二 土地の譲渡等がある場合の特別税率の計算
<省略>
別表三 過少申告加算税額の計算
<省略>